魚が存在しない理由 読了 装丁の美しさに思わず紙の本を購入した 膨大な資料の分析とインタビューによる裏付けに基づいた生物学者デイ…

魚が存在しない理由 読了
装丁の美しさに思わず紙の本を購入した
膨大な資料の分析とインタビューによる裏付けに基づいた生物学者デイヴィッド・スター・ジョーダンの軌跡と思考の考察を経て、筆者の世界そのものに対する捉え方の変容が綴られている
分類学者としてスタンフォードの初代学長にでまで上り詰めたジョーダンから人生の問題を解決するための答えを得ようとした著者の執念の追跡がやがてジョーダンの暗部にまで及ぶ物語の急展開に思わず引き込まれ半日で読み切ってしまった
著者はジョーダンの分類学と優生思想への取り組みを材料に、科学に基づいた秩序でさえ社会的構築物に過ぎないことを理解していくのだが(この本はラトゥールに直接言及していない)、この過程が数々の具体的なエピソードで彩られており印象に残った

唐突に一つの光景が目の前に浮かんだ。カーテンだ。ヴィクトリア様式っぽいどっしりしたカーテンに、今まさに私が目にしている生き物や植物たちの絵柄がプリントされている。シダ植物。トンボ。ハチドリ。(中略)私が直観的に認識しているヒエラルキーなど、カーテンのようなものにすぎない。自然の絵柄を印刷したカーテン。そのデザインは人間の目から見て受け入れやすいというだけで、あくまで恣意的なものだ。今、そのカーテンは大きくはためき、奥にある窓をちらりと見せる。窓の向こうが見たい、という思いが強くこみ上げた。 私たちが自然界に引いた線の向こう。そこにあるのだとダーウィンが約束した土地。 P326

自分の人生を自分の手で台無しにしてきた、という筆者の独白に共感する部分もあった
人生の不調の原因が他人にあるのならば取り除くことはできるかもしれないが、自分にある場合はどうすべきか
希望を放棄し続ける人生を歩むのか、それとも自分で自分を取り除くのか

逃げ場はない。何をしようと、自分の使命をどれだけ強く信じようと、どれだけ激しく悔悛しようと、何の約束ももたらされない。私は、自分の人生におけるたくさんのよいものを、自分の手で台無しにしてきた。これ以上は自分に嘘をつき続けるわけにはいかなかった。くせ毛の彼は、二度と戻ってはこない。ディヴィッド・スター・ジョーダンは、私の人生をちゃんとしたものへかえてくれたりはしない。(中略)希望を手放したなら、そのあとは、どうすればよいのだろう。私たちはどこへ行けばよいのだろう? P260

分岐生物学の観点から魚とカテゴリが存在しないということがこの本のオチとなっている
筆者が信仰していたジョーダンの業績や自明と信じてやまなかったものでさえ覆ることに、自分を縛っていた枷が外れ世界が開けたような希望を見出したようだ
脱構築やANTが作用する事例を比較的キャッチャーに描いたことがこの本のよい所かもしれない